『草のつるぎ』の第2部「砦の冬」(野呂邦暢)を読んでいるが……

昨日は電車の中でしか本を読めなかったので、文庫版を携帯した。講談社文芸文庫の野呂邦暢はこれ1冊のみ(2002年7月10日発行)。表紙に作品集とあるように、「狙撃手」「白桃」「日が沈むのを」「草のつるぎ」「一滴の夏」が収録されている。文芸春秋の文庫、『草のつるぎ』には第2部の「砦の冬」も収録しているのだろうか。

汗、便、精液。その他、体液の臭いがぷんぷんする若い肉体が描かれている。第1部は北海道に赴任する前で終わり、第2部の「砦の冬」もそんな描写が続く。

奥羽本線のとある小駅で体操をしたことがあった。列車はくだりの便を待つ間そこを出なかった。体操が終わってから時間をもてあました。ようやく出発することになってぼくが何気なく列車の下をのぞくと便所の下にあたるレールの間に排泄したばかりの黄色い物がうずたかくたまっていた。ぼくらは九州から北海道までこうして駅々におびただしい糞の山を残してきたわけだった。津軽海峡を渡ったのは夜である。朝、ぼくらは函館を出て噴火湾沿いに室蘭本線を走っていた。ぼくは窓ガラスに額をおしつけて沿線風景を見ていた。新しい天地、まさにそうだった。草原も丘もたった今石鹸とワイヤブラシで洗ったように新鮮だった。それから三ヶ月たった。(P102)

追記。文春文庫(1978年2月25日発行)には「砦の冬」も収録されていた。解説は丸山健二自衛隊の人たちが買ってくれて大増刷!とはならなかったそうだ。(2010年7月4日)