『諫早菖蒲日記』は野呂邦暢の最高傑作ではないだろうか

やっと読み終わった。『諫早菖蒲日記』は野呂邦暢の最高傑作ではないだろうか。舞台を幕末にしたこと、ぶつぎりのエピソード集にしてそれぞれの文体の完成度を高めたことで「未来の読者」に向かって語りかけることに成功している。

3年後に急死するなど予想もしていないから、当時の野呂は「現在の読者」や「若者」に語りかけていたと思う。けれどもこの作品では、昔の言葉を、1977年の日本人にも理解できるよう書き直し、いや、創作している。また、短いエピソードで小さな塊を沢山作り、野呂の書く諫早弁を自然なものにしている。

ナボコフは未来の読者のために書いたそうだが、それは、いまだかつてない言葉を紡ぎだす事である。その点において、野呂邦暢は『諫早菖蒲日記』で成功している。

引用はしないが「板木が鳴っている。」で始まる鯨狩りのシーンと、奉公の心得である「だらりだらり」の説明がよかった。

志津を主人公にしてアニメ(マンガ)にしたら『蟲師』と『ヨコハマ買い出し紀行』を足したようなものになるのだろう。