多和田葉子の『文字移植』は面白かった!
カナリア島はアフリカの北西にあって常夏の楽園らしい。
翻訳を生業としている、中年というにはまだ少し若い女主人公がその島に数日間滞在し、締め切りの迫った翻訳作業をする。翻訳は「創作する」というのと少し異なるが、それでも仕事中はプチ錯乱状態になる、という創作。
リゾート地ならではのロマンスは、翻訳元原稿の筆者との関係を妄想し、細かく砕いた岩塩の塊を舐めているような直訳調の訳文で実現されているのかもしれない。
この作品の文章は、歯ざわり、舌触り、喉越し、苦味、甘み、といった触覚・味覚的な比喩が当てはまる気がする。少し被害妄想のところは、やはりドイツ語教師だった内田百間が思い出され、そのせいもあって、これまでのところ、私にとってはベストの作品。
初出 ブックTHE文藝1 (1993年3月)
『アルファベットの傷口』(1993年3月)として発行
『文字移植』に改題。河出文庫 1997年7月2日初版 2007年4月20日2刷発行
次は『聖女伝説』へ。