多和田葉子の『犬婿入り』を読み終わった
10年ぶりの再読だが、今回のほうが楽しめた。読み方が変わったのだろう。
- ペルソナ 「群像」 1992年6月号
- 犬婿入り 「群像」 1992年12月号
「ペルソナ」に、上手いと思った表現がいくつかあったので2つほど抜き出してみる。
中国がそんなにのんびりとしたところだとは思えませんが、と道子はすばやく口をはさんだ。そのすばやさは、普段は無口でおじけづいている人が、つい口をすべらせて大胆なことを言ってしまう時のすばやさと似ていた。
それに、あの時も、と話し続けようとするトーマスを遮って道子は言った。あなた、どうして車に乗る前にいつもバックミラーに歯を映してみるの。トーマスは撃たれたように黙ってしまった。それから、ふたりは何も話すことがなくなってしまった。
道子がリキュールで酔っ払ってからの描写は、吉田健一の「金沢」を思い出した。「犬婿入り」はセンテンスが長く翻訳調だが、これは意図してのことなのだろう。両作品とも、文章を読んでいるとイメージが浮かんでくるのだが、動きのある映像ではなく、坂田靖子風のコミック。