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昨夜、新橋駅で黒人女とすれ違ったとき、ヨネさんのことを思い出した。ヨネさんは生きていれば、七十半ばのはずだ。
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「フルモトさん、黒人女を抱いたことありますか?」
ヨネさんとは女の話をしたことがなかった。男同士だからいつか出ると思っていたが、モントリオールの中華料理屋で黒人女の話をすることになるとは考えもしなかった。
「な、なんですって?」
私は聞き返した。
「まじめな質問です。黒人女。抱いたことありますか?」
「真っ黒な黒人女はありません。クォーターかもっと薄い黒人の血が入った女は何度か抱いたことありますけど。なぜですか?」
「今、黒人女がフルモトさんの後ろを横切ったので、ふと思い出したのです」
ヨネさんは、今の仕事につく前は商社マンだった。アフリカによく行ってた。
私たち以外の東洋人は店の人間だけだ。ヨネさんは続けた。
「むこうは賄賂のつもりなんでしょうね。ホテルに戻ると部屋の前で待ってるんですよ。ドアを開けると一緒に入ってきてしまって。帰れっていっても、今夜はムッシュー・ヨネを喜ばせることになってるといって帰らないんです」
「仕事なんでしょう?」
「そう。それで、いつも仕方なく抱くんです」
「仕方なくですか」
「いや、私はあのニオイが駄目でして。ニオイがつくからお前はベランダで寝てくれと言って、女をベッドから追い出してました。フルモトさんはどうでしたか?」
「私の場合は、たまたま黒人の血が少し入っているという娘だっただけで、国籍は日本、つまり日本人同士でしたからベランダに出すようなことはしませんよ。でも、今思えば、普通に外人ぽい香水のニオイでした。ニオイをかぐ場所によっては、日本人とはやはり違うなと思いました」
「そうですか。で、よかったですか?」
「セックス?」
「もちろんです」
「若かったから、よかったもなにもないですよ。その娘はいつも遠くを見るような目をしていて、エキゾチックなかんじで。何度か遊んで、抱いたのは二度だけです。旅行に行くといって、それっきり。娘のほうが私に興味を失ったのでしょう」
「若い人らしい話ですなぁ。旅行に行くですか…セックスの話ですが、私はよかったです。ニオイには閉口しましたが、黒人女はいいですよ。子宮がぐっと降りてきてキュっと摑まれる感覚です。どうです、これから黒人女を抱きに行きませんか?もっともこの町の黒人女はアフリカの純粋な黒人女ではありませんけど」
「…ヨネさん、男は何歳まで女を抱きたくなるのですか?ヨネさんは六十歳でしたよね」
「それは分からないです。個人差があると思います。私の場合は、どうも、外国に出ると無性に女が抱きたくなってしまうんです」
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ヨネさん、元気かな。