慰安/林芙美子


わたしはこひの歌を美しくうたつてみやうとおもつたけれど

もうわたしの聲は美しくなかつた

疲れてしやがれて家鴨のやうな聲だつた

わたしがこひの歌をうたほうとするとみんな腹をかゝえて笑つた

わたしも笑つたいかにもおかしいと云ふやうに

わたしは泣きながら笑つて歌つた

傷ましいこひのおもひはもはやわたしの今日の歌でなくなつてゐる

むらさきのとげがさゝつた指に

神のなぐさめのうづきがしてゐる

もうおまえは歌はなくてもよいのだよ

死ぬよりお前の慰安はないのだと小さい聲がきこえてゐる