2016-04-13 慰安/林芙美子 読書 わたしはこひの歌を美しくうたつてみやうとおもつたけれどもうわたしの聲は美しくなかつた疲れてしやがれて家鴨のやうな聲だつたわたしがこひの歌をうたほうとするとみんな腹をかゝえて笑つたわたしも笑つたいかにもおかしいと云ふやうにわたしは泣きながら笑つて歌つた傷ましいこひのおもひはもはやわたしの今日の歌でなくなつてゐるむらさきのとげがさゝつた指に神のなぐさめのうづきがしてゐるもうおまえは歌はなくてもよいのだよ死ぬよりお前の慰安はないのだと小さい聲がきこえてゐる