野呂邦暢の伊佐高ワールド
『文彦のたたかい』は架空の高校、県立伊佐高校を舞台にしている短編集だ。ただし、「文彦のたたかい」と「うらぎり」以外は「伊佐高校」の名称は出てこない(『水瓶座の少女』は北高が舞台だった)。
基本は片思いの男女高校生たちの話だが、大人にも存在感がある。「文彦のたたかい」の中華食堂のおやじは、『丘の火』に出てきてもおかしくないG島帰りだし、昔、東京で名の売れたトランペッターだったという父親が出てくる「弘之のトランペット」は、初期作品の「白桃」のように、子供が感じるみじめな気持が、顔を背けたくなるくらい上手く伝わってくる。「うらぎり」と「真夜中の声」は妄想もの。
主な登場人物は以下の通り。
- 山口文彦…伊佐高2年生。美術部。父親は市庁勤務。レイ・ブラッドベリの『華氏451度』ビートルズ。寺田からジョン・デンバー、ジャック・ルーシェの「プレイバッハ」、オスカー・ピーターソン、トルストイの『少年時代』、カミュの『異邦人』を借りている。麻生明子が好き。(文彦のたたかい)
- 寺田英雄…伊佐高2年生。美術部。麻生明子が好き。(文彦のたたかい)
- 寺田日実子…伊佐高1年生。茶道クラブ。(文彦のたたかい)
- 荒巻猛夫…伊佐高2年生。美術部。(文彦のたたかい)
- 久保田啓介…伊佐高2年生。写真部。セルフポートレートを四つ切して自分の部屋に貼っている。麻生明子が好き。(文彦のたたかい)
- 麻生明子…伊佐高2年生。茶道クラブ。母親はバー「LONDON」のマダム。トーマス・マンの『トニオ・クレーゲル』(文彦のたたかい)
- 浜田先生…世界史の教師 (文彦のたたかい)
- 野口先生…英語の教師(文彦のたたかい)
- 守田先生…生物の教師(文彦のたたかい)
- 永田さん…学校の近くの中華食堂、永福軒のおやじ。戦争で左手、右足を無くす。(文彦のたたかい)
- 中村明子…超能力者。(うらぎり)
- 杉江田弓子…絵が好き。体操部。杉江田医院の娘。(うらぎり)
- 忠男…カメラ好き。バスケ部(うらぎり)
- 大田孝一…MJQが好き。真夜中のラジオで、中学のときの教育実習生だったA先生の声を聞く。(真夜中の声)
- 中西啓子…中西電機の娘。中西電機ではLPも売っていて、大田がMJQを買いに来る。(真夜中の声)
- 吉野弘之…テニス部。夏目洋子が好き。父親は元トランペット吹き。自分も練習中。(弘之のトランペット)
- 夏目洋子…テニス部。ピアノが上手い。(弘之のトランペット)
- 細川みつこ…弘之に好意を寄せている。テニス部。細川医院の娘。(弘之のトランペット)
- 深沢…藤村明子に好意を寄せている。石田啓子より藤村明子のほうが100倍好き。163センチ。額のあざを前髪で隠している。(公園から帰る)
- 佐木山史郎…178センチ。話題が豊富。(公園から帰る)
- 石田啓子…深沢に好意を寄せている。(公園から帰る)
- 藤村明子…佐木山に好意を寄せている。(公園から帰る)