街に出て書を捨てよう:心に龍をちりばめて(白石一文)
先日の日記に書いたように、白石一文が人生観を吐露したという『この世の全部を敵に回して』は見つかったが、電車の中で乱丁を見つけたため、そこで中断。明日、取り替えてもらおう。
そこで、書店(神保町)に行く前に買い求め、車中と喫茶店で読み終えた『心に龍をちりばめて』(新潮社・2007)の感想を書くことにする。
内容(「BOOK」データベースより)
誰もが振り返るほどの美貌をもてあます34歳のフードライター・小柳美帆は政治部記者・丈二との結婚を控えたある日、故郷の街で18年ぶりに幼馴染みの優司と再会する。幼い日、急流に飛び込み、弟の命を救ってくれた彼は今では背中に龍の彫り物を背負っていた―。出生の秘密、政界への野望、嫉妬と打算に塗れる愛憎、痺れるほどの痴情、そして新しい生命の誕生―ラストシーンが切なく鋭く胸を衝く、注目の著者の新境地。
「次にどういう展開になるのか分からない」
もし白石に多くの固定読者がいて、彼らが「白石は裏切らない」と思っているのならば、彼の作品の魅力は「超展開力」にあるのかもしれない。私にとって白石の本は2冊目だが、そんな気がする。
さて、この作品では、フードライター、政治部記者、元ヤクザ。多くの人が「知り合いにそんな人はいない」と思っているだろうが、実は、知人の知人には絶対いそうな、意外と身近な人々をキャスティングしている。
また、女性を主人公にすることで、著者なりの「妊娠」「生命」「成長」の答えを出したのだろう。丈二との修羅場の空気もよく書けていると思った。
だが、私は喫茶店を出るときに、この本を捨ててきた。
なぜなのか。
この本はライブ感がありすぎた。そのライブ感とは、人から話を聞いているようなライブ感だ。
意外と身近な人たちと書いた。少し可愛いミニコミのライター、あまり人には語れない出生の秘密がある業界紙記者、元ヤクザ。ワンランク落とせば、似たような人間の、似たような物語は街に溢れている。
そう、これはセレブたちのゴシップなのだ。ゴシップは聞き流せばよい。そして、聞き終えた後は、聞かなかったことにする。
それが正しい態度だ。だから、私は本を捨てた。
本を捨てた理由はもう1つある。白石の文体は、特徴のある文体ではないのだ。文体を意識させない作品は、いかに読み応えがあっても所有に値しない。
彼は構成とかシナリオ作りを得意とする作家なのではないだろうか。
3冊目に進もう。