上陸 田中小実昌

『上陸』は、田中小実昌、20代〜30代前半の作品集。シグマというのは同人誌のようだが、解説がないので、どのような同人誌だったのか分からない。

・やくざアルバイト (土田玄太) 『文藝春秋』昭和25年7月号
・赤鬼がでてくる芝居 『シグマ』第一号 昭和30年7月
・マスター・サージャンの片目 『シグマ』第二号 昭和30年10月
・生き腐れ 『シグマ』第三号 昭和31年3月
・まじない 『シグマ』第四号 昭和31年10月
・初恋だった 『シグマ』第五号 昭和32年1月
・上陸 『新潮』 昭和32年12月号
・その十日間のこと 『シグマ』第六号 昭和33年3月

「やくざ〜」と「上陸」は、ユリイカの追悼別冊にも収録されていた。

題材は、いつものコミさんで、ベースもの、香具師もの、兵役もの(というか伝染病)。まだ、ハードボイルドのニオイがしないのと、それでいて、筋肉質、つまり若々しいことが興味深かった。

独特の文体はまだまだできあがっておらず、けれども、帯にあるように、作品世界は凝縮されている。

後期、末期のコミさんを知っていれば、それなりに優しさを読み取ることはできるのだろう。だが、私は、彼にとってのアメリカは、私たちの(例えばブッシュの)アメリカではなく、米軍で働く兵隊たちだったんだなという、当たり前のことに気がついた。

今、外資系の会社は、アメリカ資本のことが多くて、上司はアメリカ人なんだろうが、ベースの中の構造とそれほど変わらないのかもしれない。

そんな場所で働いている人たちにとってのアメリカは、ヴァイスプレジデントのジョージだったり、カントリーマネージャーのマイケルだったりするんだろう。そして、上手に世渡りしていくのもいれば、そうでないのもいるんだろうが、考えれば考えるほど、私には関係のないことで、「そんなことはどうでもいい」と思った。