思潮社 ラ・メール選書

  1. 鈴木ユリイカ『MOBILE・愛』(1985)第36回H氏賞
  2. 新藤涼子『薔薇ふみ』(1985)第16回高見順
  3. 中本道代『四月の第一日曜日』(1986)第11回現代詩女流賞候補
  4. 笠間由紀子『樹の夢』(1987)
  5. 国峰照子『玉ねぎのBlack box』(1987)
  6. 柴田千秋『濾過器』(1989)
  7. 征矢泰子『花のかたち人のかたち』(1989)
  8. 小池昌代『青果祭』(1991)
  9. 岬多可子『官能検査室』(1991)
  10. 千葉香織『水辺の約束』(1993)
  11. 高塚かず子『生きる水』(1993) 第44回H氏賞

思潮社 叢書・女性詩の現在

  1. 伊藤比呂美『青梅』(1982)
  2. 白石公子『ラプソディ』(1982)
  3. 井坂洋子『Gigi』(1982)第33回H氏賞受賞
  4. 松井啓子『のどを猫でいっぱいにして』(1983)第8回現代詩女流賞候補
  5. 榊原淳子『世紀末オーガズム』(1983)
  6. 岩崎迪子『花首』(1984
  7. 平田俊子ラッキョウの恩返し』(1984
  8. 相場きぬ子『ハイカロリー・スナック』(1984
  9. 筏丸けい子『再婚譚とめさん』(1985)

私はみた 梅崎春生

青空文庫に未収録なのでここに掲載。底本は『幻化の人・梅崎春生』(東邦出版社、1975)。初出は「世界」(1952年7月号)。「血のメーデー事件」参照。

※ ※ ※

私はみた 梅崎春生

 デモ隊第一波の先頭が、馬場先門に着いた時、そこからすこし広場に入ったところに、私はいた。私のすぐ傍では、三百名ほどの武装警官隊が、殺気立った風情で、待機していた。しかしどういうわけか、彼等はすぐに、ひとかたまりにまとまって、広場への道を開放し、デモ隊との衝突を回避する態度をとった。そしてデモ隊は、道いっぱいの幅で、二重橋めざして、広場になだれこんだ。二重橋前に、先頭が到着したのは、それから五分もかからなかったと思う。
 二重橋前の広い通路の両側には、人の背丈ほどの鉄柵があり、鉄柵の外側は幅一米ばかり余地があって、そこから濠になる。私はそこにいた。その狭い場所には、デモ隊ではなく、私同様の一般市民が、たくさんいた。柵にとりついていたかなり年配の男が、遠くを指さしながら、
「ほら警官が走ってくるぞ。あそこから走って来るぞ」
 と叫んだ。私も柵にとりつき、背伸びをすると、林立した組合旗の彼方に、急速に近づいてくる鉄兜の形がたくさん見えた。しかし老人のその叫びにも拘らず、デモ隊の連中は、あまりそちらに注意を向けていないように見えた。二重橋前に到着したという安堵感が、デモ隊の緊張をゆるめていたように思われる。
 そして、デモ隊の右側を駆け足で走り抜けた警官隊は、警棒をふりかざして、斜めにデモ隊に殺到した。私はあの一瞬の光景を、忘れることは出来ない。ほとんど無抵抗なデモ隊(一般市民も相当にその中に混っていた)にむかって、完全に武装した警官たちは、目をおおわせるような獰猛な襲撃を敢えてした。またたく間に、警棒に頭を強打され、血まみれになった男女が、あちこちにごろごろころがる。頭を押さえてころがった者の腰骨を、警棒が更に殴りつける。そしてそれを踏み越えて、逃げまどうデモ隊を追っかける。私は鉄柵の外側だったから、一応安全地帯にあった。私はつぶさにそのやり方を見た。
 警官隊の襲撃は、なかなか組織立っていて、日頃の訓練を充分しのばせた。警棒は、立っているものに対しては、必ずその頭部をねらう。デモ隊に後頭部の負傷者が多かったのは、逃げて行くところを、背後からねらい打ちされた為だ。倒れている者に対しては、腰部又は腹部をねらう。そこを殴ると、動けなくなるということを、彼等は充分に知り、またその訓練を経てきたに違いない。デモ隊の散発的な反撃にくらべて、警官たちのそのやり方は、その非人間的な獰猛さにおいて、圧倒的であった。僅か三百名ほどの人数で、数千のデモ隊に対し得たのも、ひとえにその非人間的な暴力の故である。私の見た限りでは、最初に暴力をふるって挑発したのは、明かに警官側であり、「組織された暴徒」とは、デモ隊のことではなく、完全武装のこれら警官隊であった。
 鉄柵を乗り越して、私たちのいる狭い通路に、警官が一人おどり込み、鉄兜を剥ぎとられて、濠の中に投げこまれた。顔面血だらけになって、立ち泳ぎしている。ふっと右手を水から出して、人差指でおいでおいでするような恰好をする。陸上の同僚に向かって、早くこの俺をたすけろ、という合図だ。どうやってたすけるのかなと思って、眺めていると、三人の警官が狭い通路に飛び込んできて、矢庭に警棒をふりかざして、私たちに迫ってきた。私たちは押し合いへし合い、ほとんど濠の中におっこちそうになりながら、懸命に逃げた。逃げながら、ふっと横を向くと、スケッチ帖をかかえた永井潔君がいる。
「スケッチどころの騒ぎじゃないや」
 鉄柵を乗り越そうとする時、あぶなくひっぱたかれそうになった。ころがるようにして逃げた。一般市民の女までが、殴り倒されているのだから、俺はデモ隊員じゃないと言っても、それは通らない。狂犬みたいに、手当り次第飛びかかってくるのだから、逃げるより他に手はないのである。
 女は、どうして、あんなに直ぐ、転ぶのだろう。男とくらべて、重心が不安定なのか。
 警官たちも、一人で深入りするのは恐いものだから、転んだ者にたかる傾向が大いにあった。転んで起き上ろうとする女の腰部めがけて、三度四度とつづけざま警棒を打ちおろす。あるいは後頭部を殴りつける。頭には血管がたくさん集まっているせいか、ぱっと勢よく血がふいて、上半身はほとんど血まみれになってしまう。
 また警官隊の一部には、女性に対する嗜虐的な傾向が、はっきりと認められた。単に殴るだけでなく、スカートの裾から、警棒をぐんと上へ突き上げる。女の髪をつかんで、あおむかせ、顔面を殴りつける。両三度、それを見た。
 もちろんこういう傾向は、デモ隊の抵抗が薄弱な時に、あらわれた。デモ隊が反撃に出ると、警官隊もそれどころじゃなくなり、女なんかほったらかして、当面の男たちと渡り合う。あるいは、算を乱して逃げる。彼等は、一人だけで群衆の中に残されたらどうなるか、よく知っているので、逃げる時はほとんど我先だ。同僚なんかは遺棄して逃げる。不運にして遺棄された同僚は、群衆(デモ隊外の者も含む)の怒りの真只中で、平たくなってしまう。退潮に乗りそこねて、渚に取り残された蝶みたいなものだ。
 ピストル発射について。
 私たちは初め、あれが実弾発射の音だとは、夢にも思わなかった。発煙筒(催涙ガス筒を、私は最初、ただの発煙筒だと思っていたのだ)の栓か何かを抜く音だろうと思っていた。日本人が同じ日本人を撃っなんて、とても信じられなかった。
 私が聞いた音だけでも、百発は優に越えていたように思う。
 催涙ガスにしても、威嚇のためか気勢を上げるための発煙筒だと思っていたので、その煙にいきなり取り巻かれた時は、大いに狼狽した。涙がむちゃくちゃに流れ、眼なんかほとんどあいていられない。鼻や口腔が、ひりひりと痛む。その煙の彼方から、警官隊が追って来るのが見える。ハンカチで顔をおおい、時に眼をちらちらあけて、永井君と二人で夢中で逃げた。やっと煙のないところまで逃げのび、松の木の根元に座りこんだ。眼が元通りになるまで、二十分ぐらいかかった。私などは、比較的煙がうすいところだったので、それで済んだが、濃厚な煙にあたったものは、もっと悲惨であった。松の根元に身体をくねらせ、もだえながら、「お母さん。お母さん」と若い女が号泣している。煙でやられ、そこを警棒で打ちのめされたのだ。それを看護隊の人達が、かつぎ上げるようにして、手当所に連れてゆく。あちこちの急設手当所では、血まみれになった重傷者たちが、芝生の上にごろごろと、うめきながら横たわっている。
 その看護隊の自動車の運転手の免許状を、警官隊が没収したという。重傷者たちを、勝手に運び去らせないためである。免許状がなくては、自動車は動かせない。だから、至急に病院に運びこむ必要があるような重傷者たちが、応急の手当をうけただけで、草原に苦悶しながら横たわっているのだ。何という無茶な話だろう。
 日比谷方面で黒煙があがるのを、私と永井君は広場の中から見た。そして私たちが、そこまで行くのに、三十分以上かかった。やっと祝田橋の上まで来た時、自動車はもう三四台燃え上っていた。
 もうその頃は、乱闘発生から二時間以上も経っていたので、デモ隊以外の一般市民や通行人たちも、明瞭な反警官気分を持っていた。警官隊のやり方が、あまり非人間的過ぎたからである。とにかく衆人環視の中で、自動車が引っくりかえされ、それに火がつけられる。警官隊がおしよせると、その犯人たちは、人垣にたすけられて、姿をくらましてしまう。手提カバンをさげた通行人たちも、むしろそれをかばい、警官隊から守るような傾向が、強くあらわれていた。
 そういう四面楚歌の雰囲気を、警官隊もはっきりと感知していたらしい。必要以上に神経質になったり、必要以上に威嚇的になったりしていた。罪もない通行人をなぐったというのも、おそらくそういう心理からだ。鉄兜、警棒を持たない者は、全部敵に見えたのだろうと思う。孤立感のようなものが、たしかに彼等を烈しくいらだたせていた。
 私たちが、日比谷公園寄りの歩道を、交叉点に向かってゆっくり歩行していると、警官隊の一人が、目をつり上げ、警棒を威嚇的にふりかざしながら、「貴様らあ、まごまごしてると、ぶったくるぞ。貴様らの一人や二人、ぶっ殺したって、へでもねえんだからな」
 それから、もう一人、
「一体貴様らは、それでも日本人か!」
 この罵声は、さすがに私たちを少なからず驚かせ、また少なからず笑わせた。まるで、犬か猫から「こん畜生!」と罵られたような感じであった。しかしこの事は、笑いごとでは済まされない。翌日からの商業新聞の報道の仕方や、政府側、警察側の発表ややり方などは、ほとんどこの種の倒逆を示していたからだ。たとえば無抵抗の人間を警棒で殴って負傷させ、その被害者たちを、怪我しているという理由だけでもって逮捕するなど、言語道断のやり方である。
 以上、当日見たり感じたりしたことの一部だけ。

坂口安吾の著作集と青空文庫の対応(1)

坂口安吾の著作集と青空文庫の対応(1)

●黒谷村(竹村書房、1935)
鄢谷村
木枯の酒倉から
ふるさとに寄する讃歌
風博士

竹籔の家

●吹雪物語 夢と知性 (竹村書房、1938)
吹雪物語 夢と知性

●爐邊夜話集 (四季社、スタイル社出版部、1941)
盜まれた手紙の話
閑山
紫大納言
勉強記 
イノチガケ

●真珠(大観堂出版、1943)
古都
孤獨閑談
風人録

波子
木々の精、谷の精
眞珠

●いづこへ(真光社、1947)
石の思ひ
風と光と二十の私と
いづこへ
わがだらしなき戰記(ぐうたら戦記?)
魔の退屈
戰爭と一人の女
私は海をだきしめてゐたい
母の上京
櫻の森の滿開の下

●青鬼の褌を洗ふ女(山根書店、1947)
青鬼の褌を洗ふ女
花火
オモチヤ箱
二十七歳
散る日本

●二流の人(九州書房、1947)
二流の人
第一話 小田原にて
第二話 朝鮮で
第三話 關ヶ原

●逃げたい心(銀座出版社、1947)

姦淫に寄す
淫者山へ乘り込む
禪僧
海の霧
篠笹の陰の顏
逃げたい心
小さな部屋

●不連続殺人事件(イヴニングスター、1948)

不連続殺人事件
1 俗惡千萬な人間關係
2 意外な奴ばかり
3 招かれざる客
4 第一の殺人
5 猫の鈴
6 第二の犯罪
7 探偵小說狂の老政客
8 アリバイはたゞ一人
9 火葬の歸り道
10 氣違ひぞろひ
11 火葬場からの戾り道
12 セムシ詩人はなぜ殺されたか
13 聖處女も噓がお上手
14 聖處女と最後の晩餐
15 砂糖壺とピカ一の手品
16 歌川家の秘密
17 不連續殺人事件
18 七人目
19 アリバイくらべ
20 第一級の容疑者
21 密會と拷問と拘引
22 「八月九日 宿命の日」
23 最後の悲劇
24 犯人現はる?
25 致命的な手違ひ
26 絕體絕命の惡戰苦鬪
27 心理の足跡
28 ぬきさしならぬ物的證據

●街はふるさと (新潮社、1950)

街はふるさと

●勝負師(作品社、1950)

小さな山羊の記録
精神病覺え書
日月様
行雲流水
退歩主義者
勝負師
わが精神の周圍

●夜長姫と耳男(大日本雄弁会講談社、1953)

水鳥亭
中庸

犯人
乞食幽霊
梟雄
夜長姫と耳男

国文社 ピポー叢書の国内詩集

1955年発行

岩本修蔵(1908-1979)月夜のイリス
安藤一郎(1907-1972)愛について
岡本潤(1901-1978)橋
井上充子(?-?)田舎の牧師
土橋治重(1909-1993)馬 
福田陸太郎(1916-2006)欧洲風光
北園克衛(1902-1978)ヴィナスの貝殻 
木津豊太郎(1921-1986)腕のない花束
鵜沢覚(1905-1992)鋼鉄の薔薇
長島三芳(1917-2011)終末記

1956年発行

谷川雁(1923-1995)天山
花崎皋平(1931-)明日の方へ
牧野芳子(1926-)北の薄暮
梅本育子(1930-)火の匂
及川均(1913-1996)海の花火
松尾修二(?-?)ポエジーの噴水
山中散生(1905-1977)黄昏の人

1957年発行

南川周三(1929-2007)蒐集癖の少年
田村正也(?-?)時のつとめわたしのこころ
鳥居良禅(?-?)石膏の菫
上田静栄(1898-1991)青い翼
清水雅人(1936-)ギャンブラア
大木実(1913-1996)天の川
城侑(1932-)畸型論
牧野芳子(1926-)精英樹
嶋岡晨(1932-)青春の遺書

1958年発行

内山登美子(1923-)ひとりの夏
笹原常与(1932-2012)町のノオト
辻節子(1927-)レモンの中の城
土居ナカ(1924-)海のカルテ
除村一学(?-?)青かび

1959年発行

嶋岡晨(1932-)巨人の夢
藤井経三郎(1931-)襟裳岬
許南麒(1918-1988)朝鮮海峡
大滝清雄(1914-1998)水と火の谷間より
林金太郎(1879-?)河原煎餅
松永伍一(1930-2008)くまそ唄
片岡文雄(1933-2014)夜の馬

1961年発行

菊池正(1916-?)祈祷歌

1964年発行

森崎和江(1927-)さわやかな欠如

1965年発行

高木護(1927-)夕焼け

東京の古書即売会 古書会館/愛書会

2018年1月12日と13日に東京古書会館で開催される「愛書会」(カラー目録有り)の同人ラインナップは以下の通り。無店舗は※を付けた。紙ものも多い。


博雅書房
とんぼ書林
千年堂書店
アカシヤ書店
楽水書房
古書隆文書店
波多野巌松堂書店
やすだ書店
氷川書房
古書馬燈書房
杉波書林
古書英二
天心堂
新日本書籍
うたたね文庫
古書藝林荘
松林堂書店